アーカイブを知り未来を読む

1970年代後半からのクロマトグラフィーの進歩には目を見張るものがあった。蛋白質研究領域では、目的蛋白質を単離する技術がセファデックス担体を軸として進み、HPLCの導入がアミノ酸配列分析でこれを加速した。1980年代に突入するとエドマン分解を気相内で反応させるガスフェーズ・プロテインシーケンサーが登場して、その分析部分を担当するHPLCがさらに活躍する時代となった。その時代は、蛋白質の一次構造を決めるのが優先であり、高次構造を解析する手法などに一部の構造解析技術研究者以外手は届かず、X線回折技術やNMRが蛋白質解析分野で活躍する予想は遠かった。1990年代になると、質量分析の進化が蛋白質解析に導入されたものの、特に遺伝子解析用の分析ツールが飛躍的に進化した事から、世界はヒトゲノム解読計画に集中し、ゲノム関連研究の比重が大きい時代であった。21世紀に突入し20年を超えた現在、アーカイブという過去の歴史と現在の立ち位置で、未来に向かう変曲点に居るようであり、未来に向けて再出発という感が現実味を帯びてくる。

筆者は40年以上に渡り分析機器市場でバイオサイエンスビジネスを直視してきたが、日本人はアーカイブを知り、未来を予測しながら到達点を描くという技に欠けているような気がしてならない。米国人はマーケティングという内容を真から理解し、その役割を把握して未来を見抜けていたと思う。それが過去における米国バイオビジネスでの成功の秘訣だ。研究戦略も同じかと思うのだが、やはり「木を観て森を観ず」という諺があるように、大きな視点に立ち、Japan as No.1の分析計測技術を見つけ、研究者としてのユーザーとアライアンスを組んで「使える機器」の技術開発を目指し、世界に君臨して“我がニッポン”を誇りに思う開発をしてゆきたいものである。

PROFILE

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岩瀬 壽 氏

一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー、
バイオディスカバリー株式会社 代表取締役社長&CEO。
1951年東京都生まれ。日本大学理工学部工業化学科卒。メルクジャパン、日本ウォータズ、日本ミリポア、日本パーセプティブ、アプライドバイオシステムズ、バリアンテクノロジーズ、アジレントテクノロジーなどで分析機器・バイオサイエンス機器の経営・マーケティングを経験。2001年バイオディスカバリー(株)設立。2013年より日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー兼任。

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