ドラッグデリバリーの新時代:スマートバイオマテリアルの挑戦

スマートバイオマテリアル:ドラッグデリバリーの革命
ユタ大学にて

スマートバイオマテリアルは、レスポンシブバイオマテリアルや刺激応答型バイオマテリアルとも呼ばれ、環境の特定の変化に応答して機能するように設計された高度な材料です。この技術の高度な洗練性により、特にドラッグデリバリー(薬剤送達)の分野において、従来の治療法を大きく変革する潜在力を秘めています。患者ごとに最適化された薬剤送達が可能になることで、治療の精度と効率が飛躍的に向上することが期待されています。

ドラッグデリバリーの技術

薬剤や治療法の送達プロセスは、最終的な治療効果に大きな影響を与えます。

放出特性、吸収速度、精度といった重要な要素が影響を受けるため、研究者や製薬メーカーはドラッグデリバリーのプロセス改善に多大なリソースを投じています。さらに、多くの医療介入は安定した患者の行動に依存していますが、人間の行動は一貫性がないことで知られています。

これらの不確実な要因が治療の成功に悪影響を及ぼす可能性があるため、人間の細かい管理なしで自律的かつインテリジェントに機能するバイオマテリアルへの需要は非常に高く、必要性と利便性が融合した結果として求められています。

ユタ大学のJeff Bates教授とそのチームの挑戦

ユタ大学のJeff Bates教授とそのチームは、この課題に真正面から取り組んでいます。チームは、アナライト感受性、トリガー応答、ドラッグデリバリー適性を示す高分子製剤の開発に注力しています。

チームの目標は、これらの製剤をハイドロゲルやバイオインクの形に変換し、3Dバイオプリンティング技術を活用することです。特に、眼球や口腔内のような体液レベルが恒常性と比較して変動する環境への適応に焦点を当てています。

「材料が自律的に動作し、人間の介入を必要としない、自己完結型(スマート)の存在への需要は非常に大きいです」
— Ashwin Velraj, ユタ大学Bates研究室のPhD候補生

多材料と多モダリティ

治療が展開されるプロセスを改善するため、チームは従来のバイオプリンティングの枠を超えて発想し、複数の材料とバイオプリンティングモダリティを組み合わせることで限界に挑戦しています。

チームは、BIO Xを使用した押出式プリンティングと、LUMEN Xを用いたDLP(デジタルライトプロセッシング)ベースのバイオプリンティングを活用しています。この2つの異なるバイオプリンティング技術を組み合わせた新しいアプローチにより、従来よりも生体内環境を忠実に再現する特定のジオメトリを構築するユニークな能力を獲得しています。具体的には、BIO Xの強みを活かして、複数プラットフォーム、複数層、複数成分の構造体をプリントし、一方でLUMEN Xは、光硬化性ハイドロゲルの微細なディテールを試作するための高解像度のプリンティングを可能にし、さらなるスケールアップ戦略へと繋がっています。

LUMEN Xを使用したアパーチャ制御リリース層

説明:Aperture-controlled release layer printed using LUMEN X.

スマートバイオマテリアルの次なる展開は?

Bates教授とそのチームは、バイオプリンティングが、患者ごとにカスタマイズされたヘルスケアを提供する「パーソナライズド医療」の時代を切り開く可能性があると考えています。しかし、この利点を最大限に引き出し、スマートバイオマテリアルの真の力を発揮させるためには、「プリント可能性(Printability)」の確保が重要です。

次の研究段階では、機能性ポリマーの微調整に焦点を当てています。これにより、再現性の高いプリンティングだけでなく、プリントプロセスの最適化を目指しています。最終的には、より多くの人がこの技術を利用できるようになり、現場(Point of Care)での治療の可能性がさらに広がることを目指しています。

Bates研究室のPhD候補生であるAshwin Velraj氏は、目指している成果について次のように説明しています。

「私たちは、異なるプリンティング技術で材料をプリントするために必要な基盤を明確に示したいと考えています。そのためには、ポリマーの固有特性に起因する配合の制約を克服する必要があります。現在の研究に基づき、私たちの目指す次のステージは、診断モダリティと治療モダリティを組み合わせた多層プラットフォームを、ポリマー科学の知識がほとんどない人でも迅速にプリントできるようにすることです。これにより、カスタマイズされた疾患検出や、トリガー応答型の薬剤送達オプションを簡単に利用できるツールとして技術を普及させたいと考えています。」

彼らの次の研究段階では、機能性ポリマーの微調整に焦点を当て、より多くの人々がこの技術を利用できるようにし、現場(Point of Care)での治療を促進することを目指しています。


著者: トモコ・ビールンド(CELLINK APAC 販売・アプリケーション・サポート統括)
E-Mail: Tomoko.Bylund@cellink.com

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