HPLCカラムのネーミング

1970年代に逆相分配用硬質ゲルが登場して以来、極性溶液中の化合物分析性能を飛躍的に向上させた事から、特に医薬品開発を中心としてHPLCの需要は大きく進歩した歴史がある。今では自分で充填剤をステンレスカラムに充填する事はほとんどないだろうが,当時は皆,空のステンレスカラムに自分で充填していた。

しかしながら,すでに充填されたパックドカラムが登場した事により、さらに大きく市場へ広がってゆく事になった。なかでもウォーターズ社から1970年初旬に発売されたμBondapackC18と独メルク社のLiChrosolv-RP18はダントツのシェアを誇った。これは世界で投稿される論文に書かれるカラムタイプの多くがこれらのブランドであったためだろう。

一方国内では,海外製品を追いかけるように日本製カラムが発売されはじめた.中でもタンパク質・ペプチド分離用に東洋曹達社(現:東ソー社)が1977年に発売開始したTSK-SWシリーズは,品質が抜群に優れていた。競合の同等製品ウォーターズ社ProteinPak300は,サンプルを数本分析すると,すぐにボイドができてしまうのに対して,TSK-3000SWカラムはびくともしなかった。1980年に入るとShodexシリーズという充填剤とパックドカラムが昭和電工社から追いかけるように発売され,クロマトグラフィー市場は右肩上がりで成長していった。

「Shodex(ショーデックス)」というカラムブランド名、いったいどこから来たんだろうと思っていたのだが,その由来を先日耳にした。1980年代初頭に昭和電工社に入社して間もないM氏は同社中央研究所で開発したGPCカラムの販売を任されたのだが,商品化時点でカラム名称を付けるにあたり散々悩んだ。そこで、当時世界市場を席巻するタンパク質分離用デキストランゲル充填剤「セファデックス」にあやかろうと、昭和電工社の「Sho」とセファデックスの「dex」を組み合わせて「Shodex」と命名したそうだ。
当時の昭和電工社では,合成樹脂原料(PP,PE)としてのヒット商品(ショーレックス)があり,ゴロ相も良く響きが良いというのもあったそうだ。命名当時,ショーレックスの方が知名度は高く,ショーデックスに興味のある研究者からの電話は、合成樹脂部門に電話がつながれた事が度々あったそうだ。今ではクロマト充填剤の方が知名度は高いかもしれないが,ビジネスを遂行する上では,覚えやすい名称は実に大事だと改めて思う次第だ。

PROFILE

岩瀬 壽 氏

一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー、
バイオディスカバリー株式会社 代表取締役社長&CEO。
1951年東京都生まれ。日本大学理工学部工業化学科卒。メルクジャパン、日本ウォータズ、日本ミリポア、日本パーセプティブ、アプライドバイオシステムズ、バリアンテクノロジーズ、アジレントテクノロジーなどで分析機器・バイオサイエンス機器の経営・マーケティングを経験。2001年バイオディスカバリー(株)設立。2013年より日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー兼任。

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