1960年代、表参道から青山にかけて米軍払い下げのGパンや衣類を売る中古衣類店が数件あり、小学生の頃から母親が安く仕入れてきたリーバイスやLEEのジーンズを履いていた。中学生になった14歳くらいの頃、銀座みゆき通りに行き交う若者が独特のファッションを着こなし、「みゆき族」と呼ばれていた。そのファッションこそ米国6大学の学生の服装で、IVYと呼ばれ、米国アイビーリーグから由来されていた。

当時の石津健介氏はこのファッションをいち早く米国から取り入れてVANジャケットというブランドを築き、一斉を風靡したものである。ボタンダウンシャツ、尾錠付きコッパン、コインローファー、ダッフルコート、インディアンマドラスジャケットなど、現在でも伝統あるその文化は受け継がれており、「トラッド」と言われ元々英国から米国経由でアメリカンな匂いのする文化の輸入であったのかと思う。その後、若者の流行はめざましく変化し、ベルボトムやロンドンブーツ、長髪やヒッピーファッションなど、ベトナム戦争時期を通過して変化してゆき、街にトラッドの若者は減少していった。もう米国にはそんなIVYファッションをしている人はいないのだろうなと、当時は思っていた。
しかしながら、1980年代初旬にアトランティックシティーで開催されたピッツバーグカンファレンス(PITTCON)での事前研修会で、ボストン郊外にあるWaters本社へ出かけた際、出会った社員は皆IVYリーガーの服装だった。
アメリカという広い国は、西海岸・中南部・東海岸個々に文化が違うし、また生きる世界によっても多種多様であることは、日本に居てはなかなか解らないものだった。東海岸にはまさに「アメリカントラッド」が生き残っていたのだ。今こそ情報手段が進化し、グローバル社会となっているが、幼少期から接触する文化の環境は、歳を重ねても自分の中に残存してゆくものかもしれない。これもエピジェネティックスなのではないだろうか。

岩瀬 壽
一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー、
バイオディスカバリー株式会社 代表取締役社長&CEO。
1951年東京都生まれ。日本大学理工学部工業化学科卒。メルクジャパン、日本ウォータズ、日本ミリポア、日本パーセプティブ、アプライドバイオシステムズ、バリアンテクノロジーズ、アジレントテクノロジーなどで分析機器・バイオサイエンス機器の経営・マーケティングを経験。2001年バイオディスカバリー(株)設立。2013年より日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー兼任。
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