ボストン発国内便でナッシュビル空港(テネシー州)に到着した機内、シートベルト解除が機内放送されると、一斉に乗客は席を立った。時差は1時間、米国中部時間に時計を合わせようとした時、前列の老夫婦が何やら揉めている。何かなと耳を澄ましてみると、時差についてだった。白髪の腰が少し曲がったおばあちゃんは、おじいちゃんから時差がある事を聞き、「ここはアメリカよ、時差があるわけないじゃあない、馬鹿じゃないの」と言い合いをしていたのだ。おそらく人生初めて飛行機での国内旅行だったのかもしれない。団体旅行でナッシュビルにグランド・オール・オープリーを観にくる観光ツアーのようだ。
グランド・オール・オープリーとは、カントリー音楽の聖地ナッシュビルで開かれるカントリー音楽コンサートで、アメリカ人にとっては憧れの世界なのだ。全米にはカントリー音楽ファンが実に多く、唯一日本に輸入されていないMade in USAだと確信している。

もともとカントリー音楽とは、東部に到着した欧州移民がアパラチア山脈を越えて、マウンテン音楽、フランス系コミュニティーのケイジュン音楽、アイルランド系からケンタッキー州で進化したブルーグラス、南部からのブルースと融合したヒルビリーやゴスペルなどジャンルは様々あるが、これがテネシー州ナッシュビルのラジオ局WBMから全国放送され、1950年代にジミー・ロジャース、カーターファミリー、ハンク・ウイリアムという大スターを生んだ後、同州メンフィスが生んだエルビス・プレスリー達によりロックンロールと共に全米に広がった。WBM開設の時代はエレキギターが出現した時代でもあり、多くのスターミュージシャン達がロックと並行して現代までのカントリー音楽の歴史を創作し続けてきている。小さなダウンタウンには今もライマン公会堂という昔の庶民が楽しみに週末訪れた音楽ホールが残されており、毎年1回のファンフェアーでは人気スターが街に溢れるライブハウスをツアーするのだ。
アメリカでこんなに人気のある音楽シーンを日本人はほとんど知らない。日本の演歌をアメリカ人が知らないのと同じなのだろうか。市内を走るタクシーの大半に音符がデザインされてるほどカントリーミュージックシティーの誇りがあるのだろう。日本人にカントリー音楽の話をすると、大半は「西部劇のカウボーイ、拳銃とテンガロンハットのウエスタンでしょ?」と言われてしまう。そうじゃあないんだけどな!!

岩瀬 壽 氏
一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー、
バイオディスカバリー株式会社 代表取締役社長&CEO。
1951年東京都生まれ。日本大学理工学部工業化学科卒。メルクジャパン、日本ウォータズ、日本ミリポア、日本パーセプティブ、アプライドバイオシステムズ、バリアンテクノロジーズ、アジレントテクノロジーなどで分析機器・バイオサイエンス機器の経営・マーケティングを経験。2001年バイオディスカバリー(株)設立。2013年より日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー兼任。