古き良きアメリカ ( 6 )

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(Buena Vista Social Club)と云う名前を聞いたことがあるだろうか。米国のミュージシャンであるライ・クーダーと、それまでキューバ国外には知られていなかった老ミュージシャンとのセッションから生まれ、1997年にアルバムが完成、1999年にはドキュメンタリー映画が制作された。キューバの老ミュージシャンとは戦前から1940年代にかけてキューバのライブハウス「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」で活躍したミュージシャン達で、戦後1959年の社会主義政権樹立により米国とは分断され孤立した国家となり、密かに活動を続けていたという。

ドキュメンタリーに近いこの映画の最後のシーンでは、彼らのツアーがニューヨークへ出向きカーネギー・ホールでライヴ演奏を行い喝采を浴びるのだが、涙が出てくる。印象的なのは映画の冒頭で、ライ・クーダーがバイクで人寂しくみえるハバナの海岸通りを走る姿で、時間が止まってしまった街の様子がよく解る。

西側との分断から解放され、自給自足で生活できる世界で唯一成功した真の社会主義国と聞いてはいたものの、1940年代にタイムスリップしたような街の様子に背筋がゾクゾクしてくる。バイクを止めたライ・クーダーの周りにある車が何とすべて古いアメ車ではないか。当時のアメ車は1960年代くらいまでは、ダッジ、シボレー、フォード、キヤデラックなど、やたらボディーが大きく、大きなエンジンを積んでいた。それもちゃんと 動いており、普段の国民の足となって現役で活躍しているのだ。

そんな想いを体感してしばらく経過した2008年頃だったか、以前勤務していた外資企業での国際会議がギリシャで開催され出向いた事がある。驚いたことにギリシャのダウンタウンの町はずれには、キューバで動いているアメ車が廃車として道端にそのまま
放置されているではないか。どのようにしてこんな大きな車がギリシャの街角に数多く存在するのかまでは解らなかったが、50~60年という歳月の間に、国によりこんな違いの時が流れたのだという不思議な気持ちになったものだ。

PROFILE

岩瀬 壽 氏

一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー、
バイオディスカバリー株式会社 代表取締役社長&CEO。
1951年東京都生まれ。日本大学理工学部工業化学科卒。メルクジャパン、日本ウォータズ、日本ミリポア、日本パーセプティブ、アプライドバイオシステムズ、バリアンテクノロジーズ、アジレントテクノロジーなどで分析機器・バイオサイエンス機器の経営・マーケティングを経験。2001年バイオディスカバリー(株)設立。2013年より日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー兼任。


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