第3回:特許ってどうすれば取れるのですか?~特許出願から権利取得までの流れ~

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ライフサイエンス分野のやさしい知財入門

 これまで、第1回では医薬品の種類について、第2回では医薬品と特許を切り離せない理由について紹介しました。今回は「特許」が主役です。
 皆さんは、どうすれば特許を取れるのかご存じですか?
 多くの皆さんから「特許庁に申請すれば取れる」という答えが返ってくるのではないかと思います。惜しい!間違いではないのですが、正解とも言えません。特許庁に申請する、というのは良いのですが、それだけでは足りません。
 今回は、どうすれば特許が取れるのか、についてお話ししたいと思います。

第3回:特許ってどうすれば取れるのですか?
~特許出願から権利取得までの流れ~

 特許権を取得するには、まず特許庁に「出願」する必要があります。「特許申請」という言葉を耳にすることも多いと思いますが、特許法上の正確な表現は「特許出願」です。ちなみに、特許を出願する者(個人、会社、アカデミア等)を「特許出願人」、出願した日を「出願日」といいます。

 では、特許出願から権利取得までの流れを、以下の図に沿ってみていきましょう。

特許出願から権利取得までの流れ

特許出願

 特許出願は、所定の「願書」に、「明細書」と「特許請求の範囲」、さらに必要な場合は「図面」を添付し、出願手数料(14,000円)を添えて特許庁に提出します。「願書」を提出するから「出願」というのですね。

公開:出願日から1年6か月

 特許を出願すると1年6ヶ月後に特許の内容が「公開特許公報」として公開されます。「公開特許公報」は特許庁のデータベースJ-PlatPatで誰でも無料で閲覧することができます。この段階では、まだ特許権は取得できていません。

審査請求:出願日から3年

 日本では、特許権を取得したい場合は、出願日から3年以内に審査請求という手続きが必要です 。期限までに審査請求をしないと特許出願は取下げたものとみなされ、それ以降権利化することはできなくなりますので、審査請求は絶対に忘れてはいけません。
審査請求の手数料は出願に比べてぐっとアップし、「基本料金138,000円プラス特許請求の範囲の項目数(請求項数)に応じた金額」となります。ただし、中小企業やアカデミア等に対しては減免制度があり、1/2または1/3に減免されます。

審査

 審査請求がされると、特許庁の審査官が「特許要件」を充たすか否かについて審査を行います。「特許要件」とは、簡単に言うと、出願された特許の内容(発明)が、特許権を与えるに値するものかどうかを判断する要件のことで、新規性(これまでに知られていなかった)や進歩性(これまでの発明に比べて進歩しているか)などが代表的です。
特許要件は特許法に規定されており、ここでいう新規性や進歩性というのは、特許法独特の意味を持っています。薬事における「新規性」とは意味が全く異なりますし、皆さんが頭の中で認識している「新規性」とも違いますので混同しないようにしましょう。特許要件について詳しく知りたい方は、特許法(29条、29条の2、36条、39条等)を覗いてみてください。

審査をパスすると・・・

 すべての特許要件をクリアして審査をパスすると、審査官は「特許査定」という処分を行います。続いて特許料が支払われると特許は登録されます。これでようやく特許権取得(権利発生)となります。特許が登録されると「特許公報」が発行されJ-PlatPatに公開されます。

審査をパスできないと・・・

 一方、特許要件をクリアしていないと判断されると「拒絶理由通知」が発行されます。これに対して出願人は、審査官の判断に誤りがある旨を述べる「意見書」や、発明の内容(特許請求の範囲等)を修正する「手続補正書」を提出して反論することができます。ただし、発明の内容の修正は、出願した時に記載した内容の範囲でのみ認められ、あとから新しい事項を追加することはできませんので注意が必要です。
 出願人が反論すると、審査官はさらに審査を行います。そして、拒絶理由は解消したと判断されれば「特許査定」に、解消していないと判断されると「拒絶査定」となります。が、ここで終わりではありません。
 拒絶査定に対しては「拒絶査定不服審判」という審判を請求することができます。審判で、特許要件を充たすと認められれば特許審決が出され、特許料を支払うことにより登録となります。一方、審判でもなお特許要件を充たさないと判断されると、拒絶審決が出されます。拒絶審決に対しては、知財高裁に「審決取消訴訟」を起こしてさらにチャレンジすることができます。

登録後

 登録後、維持費用(特許年金)の支払いを続ければ、特許権は出願から20年間有効です。日本の特許権は日本でのみ有効ですので、他国でビジネスをする場合はその国に特許出願しなければなりません。出願から権利取得の流れは国によって異なりますが、特許期間が20年であることは同じです。

あ、すっかり忘れていましたが、医薬品に関する特許の期間は最大5年間延長できます。開発期間の長さを考えるとこの5年は貴重ですよね。
 というわけで、次回は特許期間の延長についてお話しします。お楽しみに。

※1 米国のように、出願された特許は全て審査するというシステムの国もあります。


著者プロフィール

田中康子

田中康子
エスキューブ株式会社代表取締役/エスキューブ国際特許事務所代表・弁理士
株式会社ストラテジックキャピタル社外取締役、東京農工大学大学院非常勤講師、知的財産権訴訟における専門委員

帝人、ファイザー、スリーエムジャパンの知的財産部にて、国内外の知財実務、知財戦略構築、契約交渉、知財教育、各種プロジェクトマネジメントを経験。2013年4月に、知財の活用による日本企業の国際競争力強化を目指して知財コンサル会社「エスキューブ株式会社」を設立、同年8月に権利化を含めたシームレスなサービスを提供すべく特許事務所を設立し現在に至る。1990年3月千葉大理学部化学科(生化学)卒。

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