第5回:本当に「ゾロゾロ」出てくるの?~後発医薬品の開発から上市まで~

Introductory Knowledge of Intellectual Property in Life Sciences – The Essential Relationship Between Medicines and Patents
             

ライフサイエンス分野のやさしい知財入門

 今回は、後発医薬品(後発品)のお話です。最近「ゾロ」という言葉を聞かなくなりましたが、20年ほど前までは後発医薬品のことを「ゾロ」ということの方が多かったように思います。先発医薬品(先発品)の特許切れ後に「ゾロゾロ」と出てくるというのが語源のようです。確かに、一つの先発品に対して複数の後発品がでてきますが、開発から上市までの流れはどのようになっているのでしょうか?早速みてみましょう。
 あ、その前に、本コラムの第1回と第2回を読んでいらっしゃらない方は、まずそちらを先にチェックしてから、この続きを読み進めて頂くとわかりやすいと思います。

 第1回:まずは、医薬品の種類と特許の話を聞いてください
 第2回:えっ、新薬開発の成功率ってこれだけ?

第5回:本当に「ゾロゾロ」出てくるの?
~後発医薬品の開発から上市まで~

 後発品には、ジェネリック医薬品とバイオ後続品(バイオシミラー)がありますが、ジェネリック医薬品の研究開発を中心にお話しし、バイオ後続品についてもチラッとご紹介していきますね。

ジェネリック医薬品の開発から上市まで

 ジェネリック医薬品は「先発医薬品の特許が切れた後に、先発医薬品と成分や規格等が同一で、生物学的に同等であるとして承認される医薬品」です。そのため、ジェネリック医薬品の開発は、どの先発医薬品(品目)を開発するのかを検討する、品目選定から始まります。
 以下の図の一番左端です。

ジェネリック医薬品開発の流れ図

品目選定

 品目選定では、先発品に関する特許の調査を行い特許切れの近い品目を探します。ジェネリック医薬品の開発期間がだいたい3~4年ですから、ここから逆算して品目選定を開始します。
 よく売れている先発品には多数の後発品が参入しますので、まさに先発の特許切れ後に「ゾロゾロ」と出てくることになります。最近は、低分子医薬品の先発品の数が減少していますので、よく売れているかどうかに関わらず、後発品が参入しているようです。

製剤研究

 品目選定につづいて製剤研究へと移ります。ジェネリック医薬品は、先発医薬品と同一の有効成分を同一量含み、効能・効果、用法・用量が原則的に同一でなければなりませんが、同一経路から投与する製剤であればよいので、剤形が同一である必要はありませんし、先発医薬品との同等性を有する限り、有効成分以外の組成は異なってもかまいません。そのため、後発品は独自に製剤研究を行います。

安定性試験・同等性試験

 製剤研究に続いて安定性試験を行います。安定性試験は、製品が流通している間の品質の安定性を確認または推測するために行われる試験です。ジェネリック医薬品は先発品によって有効成分の品質特性は確認されているため、原則として加速試験のデータを提出することにより承認されます。
 さらに、先発品との生物学的同等性を確認する生物学的同等性試験(同等性試験)へと移行します。先発品に対してジェネリック医薬品が治療学的に同等であることを保証するために行われる試験で、ジェネリック医薬品の審査において重要な資料となります。
 先発品とバイオアベイラビリティが同等であれば、生物学的に同等な製剤とみなされます。ただし、投与時に水溶性の静脈注射用製剤は、医薬品が血中に直接投与されバイオアベイラビリティが100%となるため、静脈内投与のみの用法用量を有する注射剤を申請する場合、同等性試験の資料の提出は要求されません。

申請・審査・承認

 同等性試験を終えたら、結果を添えて厚労省に申請します。つづく審査では、安定性や先発品との同等性などの薬事的事項の他、先発特許との関係について確認が行われます(パテントリンケージ)。
 審査をクリアすると承認され、薬価収載後に販売が可能になります。ジェネリック医薬品の承認は2月と8月、薬価の収載時期は6月と12月と決まっています。

バイオ後続品(バイオシミラー)では?

 バイオ後続品の開発も、ジェネリックと同様品目選定から始まりますが、その後の過程はジェネリックとは異なります。バイオ後続品は、「先行バイオ医薬品と同等/同質の品質、安全性及び有効性を有する医薬品」であり、先行バイオ医薬品と品質、安全性、有効性において同等性/同質性を示す必要があります。そのため、先発品の様な臨床試験も必要です。

バイオ後続品の開発フロー図

 審査後の流れは先発品やジェネリックと同じです。バイオ後続品は適宜承認され、5月と11月が薬価の収載時期です。
 バイオ後続品は、開発に3~5年、臨床試験に2~5年、さらに申請から承認までに1~2年と合計6~12年の期間がかかり、開発費は200~300億円程と言われています。ジェネリック医薬品よりも少しハードルが高いですね。

後発品が市場に出てくると

 ジェネリックやバイオ後続品が市場に出てくると、先発企業が特許侵害だとして訴えることがあります。「先発品の特許期間が終わってから後発品がでてくるのだから特許侵害の問題はないはずでは?」と思われるかもしれません。
 しかし、先発品を保護する特許は一つではなく、また特許に関する解釈は白黒つけられないことも多いので、先発・後発の見解の違いにより訴訟に発展するのです!

 ここ10年ほどは、まるで戦国時代さながらに、先発対後発の特許をめぐる戦いが繰り広げられています。先発対後発の戦いについてはそのうちご紹介したいと思いますが、次回は、特許をめぐる戦いの基礎となる“特許訴訟”についてお話しします。お楽しみに!


著者プロフィール

田中康子

田中康子
エスキューブ株式会社代表取締役/エスキューブ国際特許事務所代表・弁理士
株式会社ストラテジックキャピタル社外取締役、東京農工大学大学院非常勤講師、知的財産権訴訟における専門委員

帝人、ファイザー、スリーエムジャパンの知的財産部にて、国内外の知財実務、知財戦略構築、契約交渉、知財教育、各種プロジェクトマネジメントを経験。2013年4月に、知財の活用による日本企業の国際競争力強化を目指して知財コンサル会社「エスキューブ株式会社」を設立、同年8月に権利化を含めたシームレスなサービスを提供すべく特許事務所を設立し現在に至る。1990年3月千葉大理学部化学科(生化学)卒。

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