第1回 「生命を測る」計画は分析機器開発から誕生した

青色の細胞が多数浮遊している様子を表した3Dイメージ画像。顕微鏡観察をモデル化した細胞構造のレンダリング
             

生命を解き明かす分析機器のアーカイブ

第1回
「生命を測る」計画は分析機器開発から誕生した

はじめに

本シリーズは、(公社)日本生物工学会会誌「続・生物工学基礎講座/よもやま話」第101巻第10号(2023年11月号)に執筆させていただいた原稿を元に修正・加筆し皆さまにお届けいたします。

2026年は、すでにヒトゲノム解読完了から25年を超過し,医薬品市場はバイオ医薬が低分子医薬を抜いて世界の50%を超えるスピードで進化しており、さらにAI活用の実用化から加速度的な進展がうかがえる時代圏に突入しています。

「アーカイブ」という言葉は,単なる回想や思い出にとどまるものではなく、過去を振り返り,先人の考え方や残してくれた遺産,成功への苦難の道やその当時の環境を知り,そして今私達が立っている環境を見直して,はじめて未来を予測し,確実な着地点という目標を決めて歩いていく事ができるという意味を含んでいるのではないでしょうか。

1970年代の昔,「モーレツ社員」という言葉が流行り,サラリーマンの姿が描かれた時代がありました。戦後の日本では,高度成長期において「ものづくり」産業が国の復興に貢献してきましたが,一方で,未来を生き抜くための戦略・戦術を構成する技量を,時代変貌の中で身に着けず歩いて来てしまったのではないかと思います。

そこで本シリーズでは、先人達の道のりを回想し,バイオサイエンス研究におけるブレイクした技術の裏に何があったのかを思い出し,執筆致しました。まずは,脳裏に隠れていた記憶を,脳みそをマッサージしながら思い起こして,書き下ろしてみる事にします。

「生命を測る」計画

バイオサイエンス研究の進歩は,生命体を構成するDNA/RNAおよびタンパク質の分子メカニズムを知るための分析機器・試薬の開発がないともたらされません。1953年にワトソン-クリックがDNA二重らせん構造を発表してから30年を過ぎた頃,当時の東京大学理学部長で,後に理化学研究所ゲノム科学総合研究センター所長を務めることになる和田昭允教授は,「DNA高速自動解読構想」を掲げ,下記の記事をNature誌に搭載しました。

「遺伝子を解き明かす研究では,DNAを読む分析機器を開発した者が世界を制する」
「大国が競って巨大な望遠鏡を作るように,二十一世紀,各国がゲノムセンターを建設するだろう.それが国の力,知識を示すシンボルになる」

この記事は、米国がヒトゲノム解読計画を発表する3年以上前の論文で、これをきっかけとして,同年に岡山市で開催された国際ワークショップ・林原フォーラム「高速自動DNA解析装置」および理研国際シンポジウム「ヒト遺伝子のマッピングとシーケンス法」には世界から第一人者が集結し,世界のヒトゲノム解読計画を大きく動かすことになったのです。集結したメンバーの中には,その後ヒトゲノム解読終了宣言をホワイトハウスで行った際に,クリントン大統領から祝福されたセレーラ・ジェノミクス社クレイグ・ベンダー博士やアプライドバイオシステムズ社(ABI社)創設者のマイク・ハンキャピラー氏なども参加していました。

そして当時の日本初の行動が世界に衝撃を与えたのでした。これに触発された米国が大きな予算を計上し,国を挙げて生命科学研究者の創出に力を入れ,DNAを読む分析機器を作り上げ,ヒトゲノム解読完了を成功させました。

そして、21世紀に突入し各方面の新技術が生まれ、現在の進歩にまで繋げることが出来たのだと思います。まさに日本発の成功から現在がある訳で、是非共この事実を若い技術者の皆様に知ってもらい勇気をもって科学技術立国日本を成功させていただきたいと願います。

PROFILE
岩瀬 壽

岩瀬 壽 氏

一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー、
バイオディスカバリー株式会社 代表取締役社長&CEO。
1951年東京都生まれ。日本大学理工学部工業化学科卒。メルクジャパン、日本ウォータズ、日本ミリポア、日本パーセプティブ、アプライドバイオシステムズ、バリアンテクノロジーズ、アジレントテクノロジーなどで分析機器・バイオサイエンス機器の経営・マーケティングを経験。2001年バイオディスカバリー(株)設立。2013年より日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー兼任。

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