第9回:えっ、後発医薬品が承認されない?!~パテントリンケージって何?~

Introductory Knowledge of Intellectual Property in Life Sciences – The Essential Relationship Between Medicines and Patents
             

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 さて今回は、ちょっとドッキリするタイトルで始まりました。後発医薬品が承認されないとはどういうことでしょうか?
 実は、第5回は「本当に『ゾロゾロ』出てくるの?~後発医薬品の開発から上市まで~」の『申請・審査・承認』のところでチラリとご紹介していた「パテントリンケージ」という仕組みに関係しています。
 後発品が申請されると、厚労省は、安定性や先発品との同等性などの薬事的事項だけでなく、先発特許との関係について確認します。そして、「このまま後発品を承認すると問題がある」と判断されると薬事的事項に関する審査はクリアできても後発品は承認されません。これが今回のタイトル「えっ、後発医薬品が承認されない?!」の正体「パテントリンケージ」です。薬事当局である厚労省で、特許について検討されるなんて驚きですよね?
 今回は、パテントリンケージについてお話ししたいと思います。

えっ、後発医薬品が承認されない?!
~パテントリンケージって何?~

パテントリンケージとは?

 パテントリンケージとは、一般に、後発医薬品の審査で先発特許への侵害有無を確認することを言います。

パテントリンケージの概念図

 後発品の審査でこういう「確認」が行われているなんてご存じでしたか?薬機法や特許法に詳しい皆さんからは「そんな規定は聞いたことが無い」というご指摘を受けそうですが、その通りなんです。パテントリンケージは薬事当局が管理する薬機法にも、特許当局が管理する特許法にも規定がないのです。えっ?

パテントリンケージって誰が始めた?

 パテントリンケージは、米国で1984年に発祥したシステムです。薬事手続きの中で特許侵害有無を確認するので、薬事行政と特許行政の狭間に位置する仕組みということになります。国を問わずこれら行政庁は独立していますので、協力して立法することは容易ではありません。
 このような背景の中、米国では先発企業と後発企業のバランスを取ることにより、全体として米国の医薬品産業の発展を促進することを趣旨として、Orrin Hatch上院議員とHenry Waxman下院議員により起案されました。そして1984年に、2人の議員の名前に由来するハッチ・ワックスマン法としてパテントリンケージが制定されました。
 その後、対米FTA(自由貿易協定)でパテントリンケージの実施を要請された国が米国式のパテントリンケージを導入しています。

日本はどうしてパテントリンケージを始めた?

 日本は、米国とは関係なく、医薬品の安定供給を目的として厚労省が発出した通知に基づいて、1994年頃から運用されています。現行の運用が定められた通知は2025年の10月と11月に出された以下の2つです。
 2025/10/8付け通知:https://www.mhlw.go.jp/content/001575895.pdf
 2025/11/14付け通知:https://www.mhlw.go.jp/content/001594987.pdf

日本のパテントリンケージってどうなってる?

 日本では、厚労省での後発品の審査(第一段階)と、後発品が承認されてから薬価基準収載までの間(第二段階)の二段階でパテントリンケージが運用されています。

 第一段階では、先発企業が先発品申請時に厚労省に提出した「医薬品特許情報報告票」(報告票)に記載された特許情報(物質特許と用途特許)と後発品との関係が行われます。

医薬品特許情報報告票

 先発企業が先発品申請時に、先発品に関する特許情報(物質特許と用途特許は必須)を記載して提出することになっています。先発品申請時から先発品の再審査期間が終了するまで特許情報の追記が可能です。さらに、再審査期間が終わってから特許が成立した場合は、速やかに追記することになっています。

 先発品のどの特許について確認が行われたのか、またどのような判断がなされたのかといった情報は公開されません。後発品を承認しても先発特許への特許侵害のおそれが無いと判断されると、後発品は承認され公衆の知るところとなります。一方、後発品を承認すれば先発特許を侵害する可能性があると判断されると、後発品は承認されません。この場合、承認しないという決定はされませんので、その後発品が申請された事実も含め、闇に葬られます。
 後発企業としては、どうして後発品が承認されないのか、どうすれば承認されるのか、途方に暮れることになります。しかしすべては未公開。途方に暮れる後発企業の存在すら表には出ません。ところがここ数年、そんな後発企業があの手この手で訴訟を起こし「後発品がパテントリンケージのために承認されない!」ということが明るみに出て、注目を集めています。

 第二段階は、先発・後発当事者間で調整を行い、特許侵害の心配がないと思われる後発品のみ薬価収載希望書を出すことという厚労省通知に基づく運用で、俗に「事前調整」と呼ばれます。厚労省通知の要請は、当事者間で調整を行うこと、にとどまりますので、事前調整を経て後発品の薬価が収載されても訴訟に発展することがあります。

 薬事と特許の狭間に位置するパテントリンケージ、いかがでしたか?
 報告票に先発の物質特許や用途特許がより多く記載されていれば、後発品の参入を阻止できるのでは、と思われた貴方、良い読みです。先発企業もそんな戦略を意識しているようです。
 というわけで、次回は進化する先発の特許戦略についてお話しする予定です。お楽しみに!


著者プロフィール

田中康子

田中康子
エスキューブ株式会社代表取締役/エスキューブ国際特許事務所代表・弁理士
株式会社ストラテジックキャピタル社外取締役、東京農工大学大学院非常勤講師、知的財産権訴訟における専門委員

帝人、ファイザー、スリーエムジャパンの知的財産部にて、国内外の知財実務、知財戦略構築、契約交渉、知財教育、各種プロジェクトマネジメントを経験。2013年4月に、知財の活用による日本企業の国際競争力強化を目指して知財コンサル会社「エスキューブ株式会社」を設立、同年8月に権利化を含めたシームレスなサービスを提供すべく特許事務所を設立し現在に至る。1990年3月千葉大理学部化学科(生化学)卒。

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