ライフサイエンス分野のやさしい知財入門
前回は、どうすれば特許が取れるのかについて、特許出願から権利取得までの流れに沿ってお話ししました。最後に紹介した特許期間は何年だったか覚えていますか?
答えは、特許出願から20年間です。そして医薬品特許の場合は最大5年間延長できるので、最大25年ということになります。
今回は、医薬品の特許期間延長制度についてお話ししたいと思います。
第4回:特許が延長できるって本当?
~医薬品の特許期間延長制度~
特許期間延長制度とは?
特許期間は、原則として出願から20年です。ただし例外として、医薬品等(日本では、医薬品、再生医療等製品、農薬)を保護する特許はこの期間を最大5年延長することができます。その結果、特許の期間は出願から最大25年となる場合があります。これを特許期間延長制度(以下「延長制度」)といいます。
なぜ医薬品の特許は期間延長できるのですか?
第2回でお話ししたように、医薬品(「医療用医薬品」のこと、以下同様)の製造販売には厚労省の承認が必要であり、臨床試験を行い、そのデータを添えて申請を行う必要があります。そのため、たとえ特許権を取得しても、厚労省に承認され、薬価を得るまでは医薬品の製造販売ができず、特許権を活用できないのです。
そこで、この「特許権を活用できない期間」を補填する目的で、特許期間を最大5年延長するという制度が1988年に施行されました。
外国にも延長制度はあるのですか?
諸外国でも延長制度を導入している国があります。米国、欧州、カナダ、韓国、台湾、中国、オーストラリア等には制度があります。国によって制度の詳細は異なりますが、延長期間が最大5年(カナダは最大2年)という点は共通しています。
どの期間が延長されるのですか?
延長期間について下の図をみながら確認していきましょう。図中の下にある矢羽根チャートは新薬の開発スケジュールを示しています。このうち赤で示した「臨床試験」と「申請/審査」の期間のうち最大5年が、20年の期間経過後に延長されます。
赤で示した期間の始まりは、臨床試験開始前に厚労省に提出する治験届の日、終わりは承認日です。ただし、治験届の日時点で特許が審査中でまだ特許権が発生していない場合は、治験届の日ではなく特許の登録日(正確には「特許権の設定登録日」)が延長期間の始まりとなります。
どういう場合に延長できるのですか?
延長制度は薬事承認とリンクしています。薬事承認があった時に、その承認を得るために特許権を活用できなかった期間を1日単位で計算し最大5年間延長できるというしくみになっています。
薬事承認にはいくつかの種類があります。ある有効成分について最初に取得する承認-最初の承認-と、効能追加、剤形追加、用法用量の追加のような二度目以降の承認です。日本では、「最初の承認」と「二度目以降の承認」のいずれも期間延長の対象となります。なお、諸外国では「最初の承認」の場合のみ延長可能、または「最初の承認」と「効能追加承認」の場合のみ延長可能という国がほとんどですので、日本の延長制度は諸外国に比べると先発に有利になっているかもしれません。
期間延長するにはどうすればよいですか?
特許期間を延長するためには、厚労省の承認から3か月以内、かつ特許権の存続期間の満了の前日までに、特許庁に延長登録出願を行う必要があります。製薬企業では厚労省との手続きを担当する部署(薬事部や開発部)と、特許庁との手続きを担当する部署(知的財産部や特許部)は異なりますので、社内連携がうまくいっていないと期限までに特許庁への手続きができなかった!ということになりかねません。そんなことにならないよう、このコラムを薬事部や開発部の方にも紹介して、社内に特許期間延長制度を周知しましょう。
また、特許権者からライセンスを受けた企業(ライセンシー)が臨床試験を行って承認を受けた場合も注意が必要です。特許庁への延長登録出願ができるのは特許権者ですので、ライセンシーと特許権者とのコミュニケーションがうまくいっていないと、延長登録出願をし損ねてしまうかもしれません。特に特許権者が外国企業の場合、「剤形追加承認」や「用法用量の追加承認」では延長ができないと思い込んでいる場合もありますので延長のチャンスを逃さないように、日本の延長制度について情報共有しておく必要があります。その場合は、是非本コラムの英語版をご活用いただければと思います。
先発医薬品の特許期間が終わると後発医薬品が出てきます。後発医薬品は、筆者が社会人になりたての1990年代には「ゾロ」と呼ばれていましたが、本当に「ゾロゾロ」出てくるのでしょうか?
次回は、後発医薬品の開発から上市までをご紹介します。お楽しみに!
著者プロフィール

田中康子
エスキューブ株式会社代表取締役/エスキューブ国際特許事務所代表・弁理士
株式会社ストラテジックキャピタル社外取締役、東京農工大学大学院非常勤講師、知的財産権訴訟における専門委員
帝人、ファイザー、スリーエムジャパンの知的財産部にて、国内外の知財実務、知財戦略構築、契約交渉、知財教育、各種プロジェクトマネジメントを経験。2013年4月に、知財の活用による日本企業の国際競争力強化を目指して知財コンサル会社「エスキューブ株式会社」を設立、同年8月に権利化を含めたシームレスなサービスを提供すべく特許事務所を設立し現在に至る。1990年3月千葉大理学部化学科(生化学)卒。

