タンパク質のふしぎにせまる ― 機能と構造の探検記(第1回)

DNAの二重らせんと、カラフルなブロック状要素が連なるタンパク質構造を組み合わせた、タンパク質の仕組みを象徴的に表現したコンセプトビジュアル。
             

「アミノ酸配列:機能を秘めた“暗号”」(第1回)

タンパク質って、そもそも何?

「タンパク質」と聞くと、まず思い浮かぶのは食べ物や栄養の話かもしれません。
でも実は、タンパク質は私たちの身体の中で
動く・反応する・形をつくる ―
そんな大切な“働き手”として活躍している分子です。

科学の言葉では、タンパク質は「高分子」と呼ばれます。
これは、小さなパーツがたくさんつながってできた大きな分子という意味で、
サイズは数ナノメートル(100万分の1ミリメートル)から、
1000ナノメートルを超えるものまでさまざまです。

アミノ酸という「たった20種類の部品」

このタンパク質をつくっているのが、「アミノ酸」と呼ばれる小さな分子たち。
驚くことに、たった20種類のアミノ酸の組み合わせだけで、
地球上にある無数のタンパク質が作られているのです!

アミノ酸は、中心となる炭素原子(C)に
以下の4つが結びついた構造を持っています:

  • アミノ基(−NH₂):弱いアルカリ性
  • カルボキシル基(−COOH):弱い酸性
  • 水素原子(−H)
  • 側鎖:アミノ酸ごとに異なる部分で、
    その性質を決めるカギ

このような構造をもつことで、
アミノ酸はそれぞれ異なる“性格”を持つようになります。

L型とD型―鏡のようなふたつの形

さらにおもしろいのは、アミノ酸には
「鏡に映したような2つの形(光学異性体)」があること(図1)。
自然界のタンパク質では、ほぼすべてが
「L型」というタイプのアミノ酸だけでできているのです。
不思議ですよね?

アミノ酸の光学異性体。L型とD型
図1:アミノ酸の光学異性体。D型とL型

並び順に意味がある!アミノ酸配列の力

アミノ酸は、「脱水縮合」という反応で鎖のようにつながり、
「ポリペプチド鎖」や「タンパク質」になります(図2)。
このときの並び順(アミノ酸配列)こそが、
タンパク質の性質と働きを決める最大のカギなのです。

アミノ酸の脱水縮合とポリペプチド鎖の形成
図2:アミノ酸の脱水縮合とポリペプチド鎖の形成

たとえば、糖尿病の治療に欠かせないホルモン「インスリン」は、
わずか51個のアミノ酸からできている小さなタンパク質。
その配列を世界で初めて明らかにしたのが、
フレデリック・サンガー博士です。
1958年にノーベル化学賞を受賞しました。

アミノ酸の並びは、まさに生命の“暗号”。
20世紀の生命科学では、
その暗号を読み解くことが大きなテーマだったのです。

遺伝子からタンパク質へ ― 情報の流れ

21世紀の今では、DNAの塩基配列
(A・T・G・Cの並び)を読むことで、
そこから導かれるアミノ酸配列も
すぐに予測できるようになりました。

この流れは「セントラルドグマ」と呼ばれます:

DNA → RNA → タンパク質

これにより、ヒトをはじめさまざまな生き物が、
どんなタンパク質を作るかを
“設計図”レベルで把握できるようになったのです。

アミノ酸配列に、まだ見ぬヒミツが

とはいえ、アミノ酸配列がわかるだけでは、
タンパク質のすべてを理解することはできません。
最近の研究では、タンパク質の特定のアミノ酸に対して、
「修飾」と呼ばれる変化 ―
たとえば、アミノ酸以外の物質が結合したり、
化学的に性質が変わったりすること ―
が起こることが明らかになってきました。

こうした修飾が、タンパク質の働きを調整したり、
病気の発症に関わっていたりすることも
分かりはじめています。

だからこそ、配列の情報だけでは見えてこない、
タンパク質の「かたち」や「動き」そのものを
“目で見る”ことが、
ますます重要になってきているのです。

一緒に探検してみませんか?

この連載では、タンパク質という不思議な世界を、
全12回にわたって探っていきます。

研究の世界に興味を持ち始めた方も、
初めて生物の仕組みに触れる方も、
ぜひこの旅にご一緒ください。

きっと、新しい発見と驚きが待っているはずです。


著者プロフィール

高尾敏文

高尾敏文

大阪大学名誉教授・理学博士。
学部4年時から定年退職まで大阪大学蛋白質研究所に所属し、
一貫してタンパク質化学・構造生物学の研究と教育に従事。
現在は同研究所特任教授(非常勤)および
株式会社リガク プロダクト本部ライフサイエンス フェローを務める。
2022年にはキューバ・ハバナ大学から
生化学の名誉博士号を授与された。

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