第3回 DNA塩基配列分析法

青色の細胞が多数浮遊している様子を表した3Dイメージ画像。顕微鏡観察をモデル化した細胞構造のレンダリング
             

生命を解き明かす分析機器のアーカイブ

第3回
DNA塩基配列分析法

1981年、当時の科学技術庁主導のもと、和田昭允教授が提唱した高速自動DNA解析装置の開発を目指すプロジェクト「DNAの抽出・合成・解析」がスタートしました。これは、産学連携の先駆けともいえる取り組みでした。第一世代DNAシーケンサーの開発には、産業界から三井情報、セイコー電子、富士フイルム、東洋曹達(現:東ソー)の4社が選抜されました。

当時主流であったのは、放射性同位体と化学切断を用いて塩基配列を読み取るマキサム・ギルバート法であり、ポリアクリルアミド電気泳動が用いられていました。しかし、この方法は平板電気泳動を利用するため装置が大型化し、多検体処理にも適していませんでした。それでも宇宙開発プロジェクトへの応用が検討され、無重力環境下で電気泳動を行えば分離能力が向上するのではないかという期待も寄せられていました。

一方で、PCRの登場と同時期に、1977年に開発されていたサンガー法(DNAポリメラーゼを用いた塩基配列決定法)の実用化が急速に注目を集めました。効率性に優れるサンガー法は、短期間でマキサム・ギルバート法に取って代わり、主流技術となりました。

これを契機に、開発は第二世代DNAシーケンサーへとシフトし、新たに日立製作所が加わった5社体制での開発が進められました。この流れは、現在のDNA解析技術の飛躍的進展につながる重要な転換点となりました。当初は、平板ゲルに溝を掘るキャピラリーゲルアレイ方式からスタートしましたが、その後キャピラリー管を用いた革新的な手法へと進化し、急速な技術発展を遂げていきました。

日本チームが自動解析装置の開発に注力し成果を上げる一方で、米国では豊富な資金と革新的な発想を背景に、サンガー法を搭載したDNAシーケンサーの開発が急速に進みました。その中でも、気相プロテインシーケンサーで成功を収めていたABI社は、サンガー法とキャピラリー電気泳動を組み合わせた世界初の自動DNA塩基配列解析装置「3700型DNAシーケンサー(プリズム3700型DNAアナライザー)」を開発し、1987年にいち早く市場投入しました。これにより、ABI社は国際市場において圧倒的な存在感を示すこととなりました。

しかしながら、この装置には日本で開発された複数の技術が組み込まれていたにもかかわらず、その事実は当時、広く認識されることはありませんでした。

PROFILE
岩瀬 壽

岩瀬 壽 氏

一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザー、
バイオディスカバリー株式会社 代表取締役社長&CEO。
1951年東京都生まれ。日本大学理工学部工業化学科卒。
メルクジャパン、日本ウォータズ、日本ミリポア、日本パーセプティブ、アプライドバイオシステムズ、
バリアンテクノロジーズ、アジレントテクノロジーなどで分析機器・バイオサイエンス機器の
経営・マーケティングを経験。
2001年バイオディスカバリー株式会社設立。
2013年より日本分析機器工業会(JAIMA)ライフサイエンスイノベーション担当アドバイザーを兼任。

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