タンパク質のふしぎにせまる ― 機能と構造の探検記(第4回)

DNAの二重らせんと、カラフルなブロック状要素が連なるタンパク質構造を組み合わせた、タンパク質の仕組みを象徴的に表現したコンセプトビジュアル。
             

「アミノ酸以外の様々な修飾 -糖鎖-」(第4回)
~遺伝暗号にはない多様な化学修飾~

前回は、タンパク質分子に起きる様々な化学修飾の中から、「リン酸化」について紹介しました。リン酸化は、いわば分子の「ON-OFFのスイッチ」です。極めて短時間でリン酸基の付加と除去が繰り返され、タンパク質の構造を変化させることで情報を伝達します。

これに対し、今回取り上げる「糖鎖修飾」の多くは、一度付加されると比較的安定して存在します。つまり、多くのタンパク質は糖鎖のデコレーションをまとって初めて「完成品」となり、糖タンパク質として本来の機能を発揮するのです。

遺伝子からは完全には予測できない「糖鎖」

リン酸化とは異なり、一部の糖鎖、例えばアスパラギン残基に付加されるN-結合型糖鎖については、遺伝子の配列情報から、ある程度「ここに付くはずだ」と予測することができます。糖鎖を付加する酵素(糖転移酵素)が、「Asn-Xaa-Ser/Thr」という3つのアミノ酸の特定の並びをコンセンサス配列(目印)として認識するためです。

しかし、遺伝子上にこの「暗号」があれば、必ず糖鎖が付くわけではありません。合成されたタンパク質が細胞内の小胞体で折り畳まれ、立体構造を形成していく過程で、その修飾部位が立体的に隠され、酵素がアクセスできなくなってしまえば糖鎖は付加されません。

また、タンパク質に結合する糖鎖の種類や数は、たとえ同じタンパク質であっても均一ではないことが多く、その構造と機能には、未だ多くの謎が残されています。

空間を支配し、相互作用を制御する

糖鎖の機能を考える上で重要なのは、糖鎖がタンパク質の表面で非常に広い空間を占有するという点です。アミノ酸からなるポリペプチド鎖に比べ、糖鎖は高度に枝分かれしており、極めて柔軟です。この物理的な性質が、大きく二つの働きをもたらします。

一つ目は、タンパク質自身の構造内や、他の分子との間に適切な距離を保たせる「立体的なスペーサー」としての働きです。

ムチンに代表される糖タンパク質では、タンパク質の芯の周囲に無数の糖鎖がびっしりと結合し、全体として巨大な高分子構造体を形成します。後の号で紹介する脂質が空間を厳密に仕切る(境界を作る)のに対し、糖鎖は周囲の空間を柔らかく満たし、独自の微小環境を作り出します。

こうした巨大な糖鎖のネットワークは、周囲に多くの水分子を保持し、かなりの物理的体積を占有します。その結果、細胞や組織を物理的な刺激から守る「しなやかなクッション」として機能するのです。図1のムチンの模式図を見ると、タンパク質本体である芯の部分に対し、周囲を覆う糖鎖がいかに大きな空間を占有し、柔軟なクッション層を形成しているかが視覚的に分かります。

細胞膜上のムチンとO-結合型糖鎖の構造模式図
図1:ムチンの構造模式図(Wikimedia Commons/Jcast07/CC BY-SA 4.0を一部改変)

二つ目は、糖鎖の先端、すなわち非還元末端に位置する酸性糖である「シアル酸」の特有の性質によって、特定の分子を認識して結合するための「目印(ドッキングサイト)」となることです。

例えば、インフルエンザウイルスが私たちの細胞に感染する際、ウイルス表面にあるタンパク質のヘマグルチニン(HA)は、宿主細胞表面にある特定の糖鎖を認識して結合します。

ウイルスがヒトに感染しやすいか、鳥に感染しやすいかという宿主特異性は、糖鎖の末端にあるシアル酸のつながり方のわずかな構造の違い、すなわちα2-6結合かα2-3結合かによって決まっています。ウイルスは、この微小な構造の差異を驚くほどの精度で厳密に見分けているのです。

まれに鳥からヒトへの感染が起きるのは、鳥型ウイルスが好むα2-3結合の糖鎖が、ヒトの肺の深部にのみ存在するためです。一方、ヒトの鼻や喉にはその糖鎖が少ないため、感染は容易には広がりません。こうした組織における分布の違いが、強固な「種の壁」の正体です。

インフルエンザウイルスHAによるシアル酸α2-6結合とα2-3結合の認識の違い
図2:鳥インフルエンザウイルスHAの糖鎖認識特異性。HAがシアル酸の微細な結合パターンの違いを正確に識別することがウイルスの宿主特異性を決定しており、これが異種間の「感染の壁」となっている。

また興味深いことに、私たちの血液型であるABO型を決定しているのも、細胞表面に存在する糖鎖構造の違いです。

最新AIも挑む、糖鎖の立体構造予測

これらは、糖鎖が担う多彩な機能のほんの一例にすぎません。遺伝子の情報だけでは完全な設計図を直接読み解くことができない糖鎖ですが、細胞間のコミュニケーションや分子認識において極めて重要な役割を果たしており、ますます科学的な関心を集めています。

糖鎖の多様性と機能に関する研究は、最新の分析技術を駆使しても、未だ困難を極める領域です。しかし近年では、AlphaFoldなどの最新の人工知能(AI)システムも、この複雑な「糖鎖のふしぎ」の解明に挑み始めています。

これまでは難しかった、糖鎖などの翻訳後修飾を含めた立体構造のモデリングも次第に可能になってきました。例えば、抗体医薬の基盤として広く用いられているIgGでは、特定の場所に結合した2本の糖鎖が、全体の機能的な構造を保つために不可欠です。こうした糖鎖がもたらす立体的な影響を考慮した精密な構造予測が、すでに現実のものとなりつつあります。

今後、構造生物学や高分解能な分析技術がさらに発展することで、糖鎖が織りなす精巧で巧妙な構造の妙が、次々と解明されていくことでしょう。次回も、こうした興味深いタンパク質の「翻訳後修飾」の世界を、一緒に探検していきましょう。


著者プロフィール

高尾敏文

高尾敏文

大阪大学名誉教授・理学博士。学部4年時から定年退職まで大阪大学蛋白質研究所に所属し、一貫してタンパク質化学・構造生物学の研究と教育に従事。現在は同研究所特任教授(非常勤)および株式会社リガク プロダクト本部ライフサイエンス フェローを務める。2022年にはキューバ・ハバナ大学から生化学の名誉博士号を授与された。